婦人科、緊急外来到着。
その時見てくれたのは若くて気さくな男の先生。

「コンニチワ」とか言ってくれてるのにちょうど陣痛が来たせいで
思いっきり流してしまった私。
ノンストレステストと内診を受けた。
子宮口は4cm開いていた。
そして、すぐさま先生から驚きの提案があった。
「予定変更して、自然分娩してみる?」
まさかの展開である。
「私は体が小さいから、リスクがあると他のドクターには言われたのですが?」
と聞き返すと、
「うん、同僚はそう言ったと思うけど。。でも、きみ足腰はしっかりしてるよね♪」と。
この先生、ちょっとの時間でそういうとこもちゃんと見てくれてる。私は、その事に感動した。
「赤ちゃんはもう生まれる準備が整っていて、ちゃんといい位置にいて、これで帝王切開してしまうのは残念だ。母子共に自然分娩できるなら、その方がいいんだよ。」と先生は言った。
そして、定規のようなものでささっと私の骨盤の広さを測ってくれた。
「うん、産める!」と先生。
「自然分娩でお願いします」、私は応えた。
予定が変更されたことを、外で待っているオンドラに伝えられた。今日生まれるよ、とも言われたらしい。
彼は立ち合い用のメッシュの服を来て入ってきた。私は陣痛で苦しみながらも、興奮していた。
私は分娩用の衣服に着替え、着々と出産に向けての準備が始まった。
そして医者や看護婦にされるがまま
チューブを使って便や尿を出したり、帝王切開になる可能性があるので下の毛を剃られたりした。
その後シャワーを浴びて待ってるように言われ30分くらい浴びてた。
暖かいお湯を浴びてる間は陣痛が少し和らいだ。
その後、LDR(陣痛→分娩→回復までを全て行える部屋)に移動。
個室にはどどーんと大きなベッド、そこに横になって、ただひたすら陣痛と戦いながら子宮口が全開になるのを待つのだ。
壁だけで隔たれた別の部屋からは妊婦さんの叫び声が聞こえてきたりした。
私がいる間に、3人の赤ちゃんの産声が聞こえてきた。
最初の赤ちゃんが生まれたのを聞いたときは、なぜか感動して涙がこみあげてきた。
女医さんが頻繁に様子を見に来てくれて、子宮口の開き具合をチェックしてくれた。
この女医さんがすごくいい人で、呼吸の仕方を一緒にしてくれたり、励ましてくれたりもした。
この時研修生が2人ほどいて、子宮口のチェックは常に2回、3回づつされた。

子宮口7〜8cmの時だったか、医者の手によって破水をさせられた。
生温かい羊水は出産中ずっとちょろちょろと流れ出ていた。
破水されて痛みが強くなった。
お尻の圧迫感、子宮が膨れ上がるような痛さ。実際は子宮が膨れるのではなく収縮しているのだけれど。
陣痛は腰とか全身が痛くなると聞いていたけど、私はピンポイントで下腹部とあばらの痛みの2つだった。
「いたーーーっ、、、」と言いながら呼吸、練習しておいた細く長い呼吸などできない。
とにかく女医さんに教わった通りに、強く鼻で吸う。
落ち着いた長い呼吸よりも、粗目に息を吸って吐く方がラクに感じた。
横で見守ってくれてる彼が、私が蓄えておいた知識とは逆のアドバイスをしたりするのでイライラした。
撫でてくれたりするのもたまに不快に感じて、「やめて!」と言っていた。
喉がからから、でもまだ帝王切開になる可能性が残っていたため、水を飲むのさえ禁止されていた。
彼に潤す程度の少量の水を口につけてもらった。
そんな時、お医者さんに「硬膜外麻酔する?痛みが和らぐよ」と言われた。
日本では一般的ではないが、海外ではとても気軽に受けられる硬膜外麻酔。
「はい、おねがいします」と即答した。
少しして麻酔専門の先生がやってきた。
この人も若い。
このLDRに関わる医者みんなやたら若い、そして優しい。全員英語も通じた。
「動かないように頑張ってみて」と言われた、そしてできる限り丸くなった。

背中にさされた注射はほとんど痛みを感じなかった気がする。
陣痛が一番痛いので、その他に起こることは屁でもなかった。
硬膜外麻酔、日本では無痛分娩と言われたりするもの。でも全然無痛じゃない。
人によって効き方が違うと読んだことがあるけど。
あまり痛みが変わらないんですけど〜??!!と心の叫び。
その2時間後くらいに麻酔が切れたようで、苦しんでいると、女医さんが麻酔を足してくれた。
すると、次はなんかちゃんと効いている!痛みが3割ほどになって、彼と普通に話せる余裕ができた。
これがすごく良い休憩となった。長丁場だったからこの時間に体力の温存ができた。
でも、陣痛を記録している機器の針を見ると、陣痛は弱くなっているようだった。
これでは、お産が進まない。
その数時間後、また麻酔が切れたようだ。今まで以上の痛みが襲ってくる。
でも、もう麻酔を足してくれないお医者さん。
陣痛が来るたびに、自分の髪の毛をわしづかみにして引っ張ってた。

しばらくして子宮口が10cm(全開)となった、でも赤ちゃんはまだ十分に降りてきてないと言われた。
赤ちゃんが降りてくるように、ちょっと歩いてシャワー浴びてきてと言われた。
シャワー室が遠くて歩くの辛かった。シャワーを浴びてる間も辛い。
シャワーから戻ると、バランスボールに乗るのを勧められた。
友達はこれ乗ったら少しラクに感じたと言っていたが、私はそうでもなかった。
赤ちゃんが降りてきてるのか、陣痛の感覚が狭くなってきてより苦しかった。
医者に「お尻に圧迫(便をしたい感覚)があったら、呼んでね」と言われたが
お尻の圧迫は、陣痛が始まって以来ずっとあるのでよくわからない。

何度かフェイントして医者を呼んだ。まだだね、と言われてバランスボールの上に戻る。
ずっと上下にびょんびょんしてた。
しばらくして、あーこの圧迫は強いぞ!というのがやってきて、分娩台の上に乗った。
そこからやっと分娩開始!
陣痛が来ると共に力むよう言われた。
1分間隔くらいにやってくる陣痛。
言われた通りに、こんなポーズで力んだり

こんなポーズで力んだり

ベッドには、私が思っていた取っ手がなかったのだ、踏ん張りにくいので代わりにシーツをわしづかみ。
力むという目的ができて、ただ陣痛に耐えているだけの時よりもよかった。
でも私の力み方が違かったようで、
「これじゃあ、力が逃げて押し出せないよ!息をとめて、指を入れるからそこを押すようにやってみて!」
と指導されて、その通りにやった。
「そう、これでいい!上手!」とほめてくれる女医さん。
それでも、思ったほど降りてきていないようだ。
褒められた力みを何度も繰り返すも、本当に少しづつなのだ。
心が折れそうになる。
「このままだと、あなたの体力がもたないので、次力んで降りてこなかったら横向きのポーズを試しましょう」
と言われた。私、ほんとに産めるのか?と自信を失い始めた。
でも、もう体制を変えること自体がつらい、このまま産みたい!ともっと力を入れて必死に力んだ。
するとそれが良い感じだったようで、けっこう降りてきた。
「髪の毛が見えてきた、お母さんのような黒い髪の毛よ!」と女医さん。
これが自分に火をつけた。何としてでも産んでやる!もうちょっとだよ、出てきてニナ!
ここに来てまた違う新しい男の先生が登場、この人と共にクライマックスを迎えることとなった。
どういう仕組みかベッドの下の方が分娩用に様代わり、足をかける場所もできた。
女医さんは私の真横に来て、生まれるその時まで励ましてくれていたようだ。
「私はここにいるよ、心配しないで!」
その時は誰が言ったのかも分からなかったが、やさしい人だったよねと後でオンドラが教えてくれた。
体が熱い、首に巻いてくれたつめたいタオルがありがたい。
もうこのまま産めると判断が下されたようで、陣痛の合間に水を飲むのも解禁された。
ゴクゴクと数回飲んだ後は、次々と押し寄せてくる陣痛に水を飲む余裕もなくなっていた。

気づけばたくさんの医者や看護婦たちが勢ぞろい。
新顔の傍観者もいたが、白衣の一族に見守られてる感覚は悪くなかった。
ものすごい大きな塊が下の方まで降りてきていて挟まっているのが分かる。
これを産むとかありえないくらい大きい。
辛い、このままでは体が壊れてしまう。一刻も早く出さなければ!という衝動にかられる。
男の先生の指示で力む。
とうとう頭のてっぺんが出たようで、女医さんに「頭さわる?」と手をつかまれた、
私は「結構です!」と手を振り払ってた。
もう最後の段階に来たのか、陣痛なしでも力んで良しと指示があった。
そこから「ンヌォ〜〜〜〜!」と全力で4回くらい力んだ時か、
赤ちゃんの体がズルズルと出ていくのを感じた。
出てくる途中で全く痛くなかったが、会陰切開をされたのもわかった。
すぐに赤ちゃんの産声が聞こえた。
挟まっていたでかいものがすっきりとれ、もう来なくなった陣痛
やったー、終わったー、産めたーーー!
ものすごい達成感だった。
すぐに赤ちゃんをお腹の上にのせてくれた。カンガルーケアーってやつだ。

「あったかい」
これだけを、何度も言っていたような気がする。赤ちゃんが温かかった。
オンドラは「切りますか?」と医者にハサミを渡され、臍の尾を切っていた。
彼はそういうの怖がるタイプだが、その時は感情が盛り上がってたのと、断る雰囲気でもなくやったらしい。
彼はクライマックスから生まれるまでずっと、泣いていたようだ。
すごく感動したと言ってくれた。
それを聞いて、彼に見せれてよかったと心底思った。
私はそのまま後処理を受けていた。最後にもう一度力んで胎盤を出したりした。
少しして娘を抱いたオンドラが戻ってきた。

父になったね、オンドラ。
後処理を受けながら、横に座った彼と話していた。
10分くらいかけて会陰切開の部分を糸で縫われていたが、
興奮と嬉しさがいっぱいでチクチクされてる痛みから遠のいていれた。
「ありがとう」という気持ちでいっぱいだった。
特にこのLDRの職員たちに対しては、
緊迫した雰囲気がまったくなく穏やかで、信頼できて、ここの医者や看護婦のお陰で生むことができた。
この病院にしてよかった。

初めて3人で過ごす、幸せな時間。
かわいいね〜かわいいね〜と二人でずっと言ってた。
看護婦に言われて、初めて赤ちゃんに乳を吸わせてみた。
生まれたばかりだというのに、しっかりしゃぶりつき、上手に口を動かし吸おうとしていた。すごい本能だ。
私の回復に2時間必要とのことで、娘が連れて行かれた後もそのままオンドラと過ごした。
時計がなかったので、朝ここに来てからどのくらい時間が経ったのか分からなかった。
お腹はすごく空いていた。
残っていた入院食の夕飯をもらった。質素なものだったけど、朝以来口にする食事だったので美味しくかんじた。
病室に行く前に、看護婦さんの介助を受けながらシャワーを浴びに行った。
足元フラフラ、シャワーをかけると頭がぼわーとなって倒れそうになってしまい簡易ベッドに横になった。
「出産は本当に体力使うからね、よくあることよ、心配しないで。」と看護婦さん。
トイレにも行けなくなり、尿をチューブで出してもらって、シャワーの変わりにやさしく全身をふいてくれた。
思ってみれば2日間まともに寝ておらず、LDRで10時間、長い長い闘いだった。
とても満足のいくお産だった。